メンタルクリニックのイメージ

「メンタルクリニック」というと、皆さんはどんな所をイメージされますか。 馴染みがなくて見当のつかない方、大いなる勘違いをされている方が多いのではないでしょうか。そこで今回は、私のクリニック(デイケアに集う若者の間では「かずメン」と呼ばれている)を訪れる人々に出会っていただいて、メンタルクリニック(心療内科・神経科)に対するイメージを新たにしていただけたらと思います。

 


ハナちゃんは幼稚園に入園したばかり。園児達が一斉に園庭に飛び出したりトイレに一斉に駆け込んだりする姿を見て、オロオロ怖がってしまい登園を拒否するようになりました。実は幼稚園に上がる前から、「地震がくるとみんな死んじゃう」と言って急に泣き出すような行動がありました。ハナちゃんは私の前では緊張しながらもお利口に質問に答え、時折はにかむように首を傾げていました。一見なんでもない幼女と映りますが大人の私に無理に合わせていると感じました。「強迫観念(不安なことを思い浮かべてそこから逃れられなくなる)」という現象が彼女の心を占めていることが推測されました。カウンセラーに遊びを通して彼女と関わってもらう(遊戯療法)ことにしました。数ヵ月後、ハナちゃんは登園して友達の中に入れるようになりました。

 


よちよち歩きの子供を連れて、アキさんが訪れました。子供が自閉症ではないかという相談です。私の専門が児童思春期なのでそうした相談が多いのです。子供は心配ないのですが、アキさんが気がかりです。元はやり手のセールスレディーなのに、今は生気がなく悲壮感いっぱいです。出産後から急に意欲がなくなり、何をするのも億劫ですが、長男の嫁なので姑に頼るわけにはいかない、弱音は吐けないと言うのです。いつからか子供も可愛く思えないそんな自分は母親として失格です、消え入りたいと泣き崩れてしまいました。「うつ病」の独り相撲です。薬を処方して通院していただくことにしました。



ナカヤマさんは係長になったばかりの多忙な営業マンです。このところ動悸と頭がクラクラする症状が頻繁に続くため、内科や脳外科を受診したのですが「異常なし」と言われ、がっかりして私を訪ねてきました。「何か大変な病気のはず」なのに、異常がないだなんてと落胆されるのです。体に異常がないことを喜べないとは奇妙です。「心気神経症」といって、生理的に誰もが体験する動悸やめまいなどの身体現象を過敏に据えて怯え、常にその身体症状にとらわれてしまう状態なのです。当面薬を使いたくないというナカヤマさんには、森田療法(日本独特の精神療法)という治療を行うことにしました。



老若男女、様々な人々がクリニックを訪れます。人々の口からは、どこでも聞くようなありふれた話が語られることが多いのです。そうして、私は眼前の人々が、隣近所にいる至極身近な人であることに気がつくのです。


2004年04月01日