うつの話 1

クリニックを訪れる方々の相談で最も多いのが、「うつ」に関するものです。近頃では、あらかじめインターネットで情報収集を行い「私はうつ病です」と自己診断して来院される方も目立ちます。また、「うつ」という言葉が日常的に汎用され、拡大解釈されて、何でもかんでも「うつ」と誤解されているケースもあります。そこで、これから3回にわたって、「うつ」をめぐる話を進めていきたいと思います。
今回は「うつ」とは実際どんな状態なのかをみていきましょう。


抑うつ気分というのは、確かに私達が失恋したり、試験に失敗したりした時経験するおなじみの感情状態です。この場合は精神的なショックの後の反応なので、うつ病などと違って、ショックを和らげる励ましや気分転換で比較的短期間に元に戻ることができます質的にも、うつ病の抑うつとは明らかに異なっています。治療対象となる「うつ」は言うなれば精神エネルギーの枯渇状態です。アクセルを踏めども踏めども一向にエンジンが反応しないガス欠の自動車のようです。精神エネルギーが枯渇してくると、心には二つの「うつ」が生じてきます。ひとつは気分の沈み込みで、もうひとつは意欲や思考活動の減退です。それらの特徴を患者さんの言葉から拾い出してみましょう。

<気分のうつ>

・訳もなく悲しい
・傍に家族がいるのに一人ぼっちになった気分
・気がが晴れない
・面白くも楽しくもない
・居ても立ってもいられないようなイライラ
・取り返しのつかないような焦りと不安

<意欲・思考のうつ>

・何をするのもおっくう
・やる気がしないし、やっても手につかない
・出不精になった
・すぐに飽きてしまう
・考えがまとまらない
・考えが進まない
・同じ事をくどくど考えてしまう
・決断がつかない

このような精神状態に加えて、精神エネルギーの不足は身体に影響を及ぼすために必ず身体活動の停滞も生じてきます。

<身体のうつ>

・体がだるい、重い
・体がえらくて、疲れる
・すぐ息切れがする
・頭が痛む・重たい・ぼんやりする
・眠れない
・お腹が空かない
・便秘がちになる

お年寄りの中には、こうした身体症状だけを訴えるうつ病の方が多くおられます。精神症状が背景に隠れているので、仮面うつ病などと呼んだりします。
また、不眠については、なかなか寝つけないという入眠困難のほかに、途中で目が覚める、早朝に目覚めてしまうといった点がうつ病の特徴です。また、うつ症状は一日のうちでも波があり、朝が悪くて夕方になるにつれて少し軽くなる方が多いようです。日によっても、いい日と悪い日の波があります。

うつ病の方の目に映る世界はとても悲観的なものです。ちょうど、落とし穴にハマったように、狭く暗いところでもがいいているように見えます。実情とはどんどんかけ離れて袋小路に入り込み、「もう何もかもダメ」と悲観的に固まっていくので自殺などに充分な注意が必要になります。うつ症状が改善するとまるで悪夢から覚めたように、「何をそんなに苦しんでたんでしょうねえ」などと述懐するのですが。

さて、あなたにあてはまるうつ症状がありませんでしたか。

2004年05月01日