うつの話 2

うつ病にかかりやすいとされる性格が昔から知られています。
以下に列挙してみましょう。

生真面目
几帳面
完全主義
頑固、こだわりが強い
頼まれると、いやと言えない

こうして挙げると、なんだか物々しくピンとこないかもしれません。実際うつ病の方にこれらの特徴をぶつけてみると、「私はそんな真面目ではないし、部屋も乱雑でとても几帳面とは言えません」などという答えが返ってくるものです。私生活はともかく、仕事(勉強)に限ればどうかと尋ねてみると、「きちんとやらないと気がすまないし、いいかげんにはできない」という返答。立派な、生真面目几帳面な性格です。これらの性格特徴を持ち、エネルギッシュに活動すると、社会的には仕事のできる人頼りにされる人との評価を受けるでしょう。事実クリニックを訪れるうつ病の方に職場の中で高い地位を得ている人が結構おられます。



性格特徴と社会的地位。しかしこれがまた、うつ病の治療を難しくする要因になりがちです。うつ病の養生において基本となるのは何といっても休養ですが、「仕事に穴を空ける」「職場に大変な迷惑をかける」、「上司(先生)の期待を裏切る」と言った理由をつけて休養を頑なに拒むことが多いのです。主婦の場合も、「妻や母としての役割を放棄できない」と休養に乗り気ではありません。彼らと話していると、自分のためというより職場や人のために、あるいは人間はこうあらねばという人生観のために、自分という歯車があるという風に聞こえてきます。彼らは小さい頃親にくっついて甘える体験が少ないため、影響力のある組織や人物に一体化していこうとする傾向が強いと言われています。これが、他人のためでなく、自分のための休養という考え方の方向転換が一筋縄では進まないゆえんです



近年では、うつ病は、脳内の神経伝達物質の不足状態であると説明されています。私たちが何事かを考えるとき、脳内では神経線維上を電気信号が凄まじいスピードで行きかっています。送電線の中継所のような場所が随所にあり、電気信号を別の神経線維へと伝えていきます。この中継所で信号伝達を司る物質が不足しているために、信号の伝達が滞り、考えが進まない、決断できない、行動できないといったうつ症状が出現すると言われています。したがって、うつ病の治療にはこの脳内の神経伝達物質を補う、抗うつ薬と呼ばれる薬を使用するのが一般的です。しかし治療の第一歩が脳の休養であるのは、薬がなかった頃からの基本であり、新しい刺激を脳に与えていたずらに信号伝達させたくないということです。よく、気分が変わるから新しいことに挑戦してみては、といったアドバイスをうつ病の初期の方にする人がいますが、百害あって一利なしです。



さて、うつ病発症のきっかけについても、数々のライフイベントが挙げられています。

転勤、人事異動、昇進、開店
引越、新築、町内会・PTA役付
結婚、妊娠、出産、更年期
転校、受験、入学

これらは、人生における転換期を意味しています。「うつ」という言葉から、「苦しい」状況を連想しがちですが、意外に幸せといえる状況の多いことに気づかされるでしょう。幸せの中で、彼らは期待に応えようとする強い役割意識や責任感を持っています。また、変化した生活状況や人間関係に早くしっくりと馴染もう、一体化しようと必死になっています。良き上司になるため、良き嫁になるため、良き母になるため良き隣人になるために。「まあボチボチと、気負わずゆっくりマイペースで」なんてできない性分なのです。うつ病はすでにかなり頑張った結果であるわけなので「気を張って、もうひと頑張り」などという励ましが的外れなばかりか、有害な追い詰めになることがお分かりいただけると思います。

2004年06月01日