変わった子ども

「変わった子」と言うと語弊がありますが、その印象はやはり一風変わっています。私のクリニックを訪れる子どもたちの約半数は、「変わった子」、すなわち「発達障害」という範疇に属する子どもです。近々国会で「発達障害支援法」が成立するといった報道がなされているので、この言葉をどこかで耳にしたことのある方も結構いらっしゃるのではないでしょうか。発達障害は近年大幅に増加していると言われていますが、実はこのところ大人の発達障害もクリニックに来られます。うつ病や適応障害、統合失調症などと診断されて治療を受けてきた方々です。今回はこの「発達障害」について、頻度の高い二つの障害をお話します。



注意欠陥/多動性障害(AD/HD)

ヒロシ君は小学校三年生です。授業中、じっと席に着いていられなくて、立ったり座ったり、後ろの友だちにチョッカイを出したりの毎日です。先生の注意も五分もてばいい方です。このところ、友だちから「お前うるさい」と、仲間に入れてもらえないようなエピソードが続いたので、心配した両親とクリニックを訪ねてきました。ヒロシ君が診察室の椅子に座っていられたのはほんの十秒。立ち上がって、私に可愛い笑顔で「いい?」と尋ねながら診察机に手を伸ばし、私の返事が終わらぬうちに、卓上時計やペンライト、クレヨンをすでにいじくり始めます。すぎに飽き、今度はソファに座りまた「いい?」と今度は母親に言うが早いが、ソファの上でジャンピングを始めてしまいます。

ヒロシ君は乳児期の頃からとても元気がよかったそうです。幼稚園に入って先生から落ち着きがないとの指摘があったのですが、周囲から子どもはこのくらい元気な方がいいなどと言われ、様子を見ていたとのことでした。小学校二、三年になると、それまで落ち着きのなかった友だちも徐々に幼児性が消えて落ち着き、ヒロシ君の変わらぬ多動性が浮き彫りになってきたとのことでした。また、多動性ばかりか、集中ができないということも問題になってきています。授業に集中できない、先生からの注意や、親や友だちとの約束をすぐに忘れる、忘れ物が多い、などです。しかし、ゲームや漫画など興味や関心のあることには時間を忘れて没頭するのです。こうした注意集中の困難やムラを、「注意欠陥」と呼んでいます。

多動が優位に出て、注意欠陥が目立たないタイプ、逆に注意欠陥が優位で多動がほとんどないタイプ、両方の特徴を合わせ持つタイプがあります。注意欠陥が優位となるのは女性に多いようで、テレビで「片付けられない女」とかいって注目を浴びた人々がこの範疇に属する方々でしょうか。

この注意欠陥/多動性障害を親御さんに説明する際、失礼ながらいつもイメージキャラクターとして使わせていただいている人物がいます。日本のミスター、長嶋茂雄さんです。若い頃からのおちつきのない身のこなし、忘れ物王、焦点の定まらない踊るような話術、 天真爛漫な嫌味のなさなど、つい「間違いない!」と思ってしまいます。



「アスペルガー症候群」

このところ、「注意欠陥/多動性障害」を念頭において多動のお子さんを連れて来られる親御さんが多いのですが、意外にその診断がつくことは多くありません。むしろ、この「アスペルガー症候群」とか、「高機能自閉症」とかいう診断に傾くことが多くなっています。専門的なことを抜きにして言えば、アスペルガーと高機能自閉症はほぼ同じものと考えていただいていいでしょう。自閉症の軽症型と言えるものです。社会性とコミュニケーションの障害、思考の柔軟性の乏しさ(こだわり)が特徴です。


コージ君は小学校の一年生です。授業中動きが多く友だちの持ち物をいじくったりして落ち着かないのですが、問題はそれではありません。問題なのは、それを先生が注意すると急にびっくりしたように教室を飛び出してどこかへ走り去ってしまうことです。他の先生が見つけてなだめると、まるで何事もなかったように自分でふらり教室に戻ります。コージ君は一年生にしては大人びたしゃべり方をしますが、実は赤ちゃん言葉を最初から使わなかったそうです。コージ君は状況(TPO)がうまく読めないようです。校長先生の前でも堂々としていて、「ねえ、なんでヒゲそってないの?」とか唐突に聞いたりします。隣席の子の消しゴムを勝手に使ったのに驚いて、その女の子が泣くと、「どうしたの?」と平然としています。ともかくマイペースな生活ぶりが目立ちますが、これらは「社会性やコミュニケーションの障害」です。他人の気持が読めず、場の雰囲気を察することが困難なのです。また、虫好きなのですが、どこにいても昆虫を見つけると、ペラペラその昆虫について解説を始めます。一般向けの昆虫図鑑を隅から隅まで覚えているのだそうです。すごい特技ですが、これは「こだわり」の一端です。

この障害をイメージしていただくとすると、誇張も多いのですが、「Mr.ビーン」がその雰囲気を伝えていると思います。専門家の中には、近年ノーベル化学賞をとったノーベル○○さんや改革民営化に燃える某国の総理も、軽度ながらこの障害であろうと診断する人がいます。


ちなみにこうした発達障害には、特異的な才能を示す人が多く、アインシュタインを筆頭に天才と称される偉人が数多く挙げられています。

2004年11月01日