大人の軽度発達障害

*以下の文章において、現在の当院の診療状況とは異なる内容が含まれております。現在は、20歳以上の方の初診を受け付けておりませんので、ご了解ください。



児童思春期を中心に診療と看板を掲げていても、当クリニックを訪れる半数以上の方々は大人です。「うつ」、「パニック」、「不眠」、「無気力」、「ひきこもり」などといった問題を抱えておいでです。そのうち、「(躁)うつ病」、「パニック障害」、「社会不安障害」「強迫性障害」といった診断で、他の施設で治療を受けてきた方がおられます。
1年、2年通ったがあんまりよくならないというのが、当クリニックへの受診動機です。
こうした方々のほとんどが、じつは背後に軽度発達障害を抱えておられると診立てています。現在の精神医療(特に、薬物療法)のレベルからして、1~2年治療を継続すると、曲がりなりにも上向いてくるものです。しかし、あまり改善が見られないとすれば少し特殊な場合ということになります。ですから、他施設から来られる方の場合、念入りに幼児期や学校時代の様子を伺い、特殊性を探っていきます。
すると、いくつかの類似点がその方々から抽出できます。

(1)マイペース
人目を気にしたり、あれこれ人間関係で気をもんだり、人前に出て行けないと言ったりする割に、意外に思い切ったことを述べたり、自分でそそくさと行動してしまうところがある。小さい頃から、マイペースな子と言われていた。集団行動が苦手。

(2)場の状況が読めない
他人を意識する割に、相手が何を考えているか、その雰囲気を読めず、深読みして被害的に受け取ってしまいがち。

(3)こだわりの強さ
考えや物に関して妙なこだわりを持っている。物事の順序、スケジュールなど
これはこうでないとといった頑固なこだわりがある。

(4)タイムスリップ現象
過去の、とりわけよくない体験について鮮明な記憶があり、不意にあるいは何かに触発され急激に脳裏に去来する。遠い記憶がまるでビデオ再生を観るかのごとく鮮やかなためその当時の嫌な感情をあたかもタイムスリップしたかのようになまなましく再体験してしまう。



こうした特殊な類似点は、じつはアスペルガー障害などの軽度発達障害の特徴に合致するものです。その他、すぐにキレる、片付けられない、人の話が聞けないといった特徴を持つ人もいます。こうした方々の多くは学校レベルまではあまり問題となることはなく青年期以降に問題が表面化したので、大人を専門とする治療者では発達の障害を疑うことはまずないでしょう。軽度発達障害のにおいを嗅ぎ分けるのは、児童精神医学を専門とする者でないと少しむずかしいかもしれません。
このように、背後に軽度発達障害の存在が疑われる場合、自ずとアプローチの仕方が変わってきます。その方の特殊性、独自性に焦点を当てながら、独自の生き方を一緒に考えていくことになります。

ある日、ふとその日の予約の入っている患者さんを数えてみたのですが、私が診察する方とカウンセラーたちが受け持つ方、大人と子どもを合わせた総数の約半分が軽度発達障害を背景に持つ患者さんでした。軽度発達障害というものが、子どものみならず大人でも思いのほかに多いことがお分かりいただけると思います。
2005年05月19日